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テロ(書評) [■BOOK・COMIC]

満足度★80点


テロ

テロ

  • 作者: フェルディナント・フォン・シーラッハ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/07/11
  • メディア: 単行本


■命の尊さは数で比較できるか

旅客機をハイジャックしたテロリストが、7万人が詰めかけるサッカースタジアムに旅客機を墜落させようと計画していた。
時間が迫るなか、コッホ空軍少佐は命令に反して旅客機を撃墜する。
彼を無罪にするべきか有罪にするべきか、という思考実験的な話である。

同著で提示されている法的根拠からすれば有罪となる可能性は高いであろうが、それとは別に自分なりに考えてみました。
断腸の思いで…やはり有罪にすると思う。
なぜなら、「どうして観客を逃がすことを提案しなかったのか」という検事の言葉にギクリとしたから。

コッホ含め、登場する軍の関係者らは「7万人か100人どちらを犠牲にするか?」ばかりを考えて、「全員が助かる道」を考え尽くしたといえないと思った。

もし検事の言うとおり、「コックピットに乗客が入り、テロリストを拘束する」可能性があったとしたならば、コッホは乗客が生き残ることができる一つの手段を奪ってしまったのである。

どちらも手を尽くした結果、死に至るのはしょうがないと思う。
もちろんコッホには悪意はなく、彼なりの正義から行った行為ではあったのだろう。
しかしそれも絶対そうだとは言い切れない。何故なら他人の思考を科学的に計るすべが無い限り、「彼の行為が良心から来るものか」を断定することはできないから。
法で裁けるのは結果でしかない。一個人が同意もなく生殺与奪してはならない。

映画【ダークナイト】でもジョーカーが無辜の人々の命を、同じように天秤にかけたことがある。
罪人達だけが乗る船と、一般人が乗る船それぞれに爆弾を仕掛け、両方にスイッチを渡し、先にスイッチを押した方を助けるというのだ。
両方の船で、命をかけた議論が巻き起こる。なんと一般人がスイッチを押すことを先に提案する。「相手は悪人だから」という理由で。しかし罪人達が先にそのスイッチを捨てるのである。

ここでもしどちらかがスイッチを押してしまったら、ジョーカー=テロリストの言いなりになったも同然だろう。

彼らは他者の命を奪う権利は誰にもないと考え、もしその結果全員がジョーカーに殺されてしまったとしても、希望を捨てなかったことをテロリストに示せると考えたのである。
そして最後まで生き残る可能性があることを信じ続けた結果、全員助かるのである。

もちろんこれは映画の話なので理想論的な結末ではある。
「たとえば一人が死ぬことで、種の絶滅を防ぐことができる」などの条件が与えられたら、意を翻して命を数で比べてしまうのではないかと思ってしまう自分もいる。

ハイジャックしたのが、これが致死率100%の ウイルスを抱えたテロリストだったら?
国が混乱に陥ること必至の要人ばかりが搭乗していたら?
悲しいかな、人間は完全平等にはなりえない。
種の保存上、秤にかけるのはしょうが無いのかもしれない。

それに人間は人間以外の動物が増えれば殺すし、絶滅危惧種は保護をする。
それは命を「数」で秤にかけていることに他ならない。
そうやって、頭の中はどうどう巡りになる。

しかし法治国家の原則が崩れてしまい、その後に待ち受けている世界を考えると恐ろしい。
結局、私たちは御託を並べてルールを決めて生活しなければならず、そうして決めたルールを、自ら放棄してはいけないのだと考える。
完全なる法治国家に少しでも近づくために、法律自体を見直し続けること。
改めて基本中の基本を、この本で教えてもらった気がする。

巻末に、風刺画がきっかけでテロ被害にあったシャルリー・エブドに向けて語った著者のスピーチが、掲載されていた。
「あなたの雑誌は軽佻浮薄で、激烈で、ふざけるなと言いたいくらいです」としつつも、
「しかしそうすることで、わたしたちの自由を表現し、具現化してもいるのです。あなたの雑誌は何百年にもわたる闘争と抑圧と苦悩の末に作り上げられたこの世界の一部なのです」と語っていた。
表現の自由の尊さを語る、簡潔で明瞭で模範的な答えが提示されていると思う.


ホワイトジャズ [■BOOK・COMIC]

満足度★90点


ホワイト・ジャズ (文春文庫)

ホワイト・ジャズ (文春文庫)

  • 作者: ジェイムズ エルロイ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/06/10
  • メディア: 文庫

 

■ 毒をもって毒を制すとは

文化の日。
エルロイの「ホワイト・ジャズ」読了。

LAコンフィデンシャル、ブラックダリアの記憶をほじくりかえす。
様々な人物と思惑が螺旋になり、それはしぼむどころか大きな竜巻となって、周囲を巻き込み蹂躙しながら昇華していく。
疲れ/毒気にあたられ、でも不思議な活力をもらう。抗えない魅力。

自分を嘆くだけの害のない引きこもり気質の人間より、精力的な害のある悪人を好む自分を再発見。
人生に意味を求める=他力本願、人生に意味を見いだす=能動的。
前者は近年の邦画に多く、後者は米映画に多い。だからか惹かれない邦画が多い(要するにへたれが多数登場し、暗い)。

ダドリー・スミス、これだけの精力的な悪を他に知らない。そして憎めない。


ブラック・ダリア (文春文庫)

ブラック・ダリア (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1994/03/10
  • メディア: Kindle版

 

LAコンフィデンシャル(上) (文春文庫)

LAコンフィデンシャル(上) (文春文庫)




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砕け散るところを見せてあげる [■BOOK・COMIC]

満足度★65点


砕け散るところを見せてあげる (新潮文庫nex)

砕け散るところを見せてあげる (新潮文庫nex)

  • 作者: 竹宮 ゆゆこ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/05/28
  • メディア: 文庫

■工夫はされているが、ラノベを払拭しきれていない

 

一人称の視点を変えた小説。
一読すると語り手が変わったことに気がつかないため、混乱するが、時系列が変節した箇所を読み返すとすぐに気がつく。

冒頭から親子のコントまでが主人公の清澄が死んだ後の玻璃と、2人の息子(真っ赤な嵐)の話。
その後の回想が、高校時代の清澄と玻璃の話。

玻璃は、父親から受ける虐待と学校でのいじめなど、辛いことは全てUFOのせいだと現実逃避している女の子。なので、成り行き上父親を殺してしまったことを「UFOを撃ち落とした」と表現されます。
そして、そのUFOを撃ち落としたことで「死んだのは二人」と大人の玻璃は言います。その二人とは…

  • 玻璃のお婆ちゃん⇒人差し指
  • 玻璃のお母さん⇒中指
  • 玻璃の父親⇒親指(玻璃が殺す=玻璃のUFOを撃ち落とした)
  • 清澄⇒薬指(玻璃を助けられなかった後悔から?水難者を助けて溺死=自分のUFOを撃ち落とした)


ということで「UFOを撃ち落としたことで死んだのは二人」、玻璃の父親と清澄。

ここまではただの事実を紐解いただけで、ここから先は「何故清澄の心に新しいUFOが浮かんだか」という疑問を、私なりの解釈で書いていきます。

清澄は、父親殺しというもっとも深い業を玻璃に背負わせたこと、また結果的に助かったとはいえ、自分自身の手で玻璃を助けられなかった不甲斐なさからか、後悔の念を背負ってしまう。
それを⇒新たなUFOの出現と表現

名前を変えた玻璃と「俺たちは再び出会ってしまった」ため、二人は共に清澄の母も含めて三人で暮らす。
しかしそれは名前を変えた「新しい」玻璃であって、あの日のことをなかったことにした仮初めの玻璃。
玻璃も清澄のUFOは見えていたことから、彼の思いは痛いほどわかっている。

清澄はずっと玻璃と名前を呼んでいなかったことから、あの話は新しい玻璃の心の中に封印していたのだろう。
でもそれでは清澄の気持ちは報わず、助けられる命を助けたいというhero願望は消えなかった。
そして、偶然水難者を目の当たりにし、助けに入ったとき、自分のUFOを打ち落とすことができた…。

もしかしたら、UFOは清澄の恐怖心の具現化されたものかもしれない。
玻璃の父親に半殺しにあったあの日、本当は死力を尽くせば動けたのに、彼はどこかで諦めてしまった。殺される恐怖におののいた彼は、玻璃の父親の影に(存在しないにも関わらず)怯えて生きていたのかもしれない(一種のPTSD?)、ともとれる。

ただこの解釈もストンと腑に落ちない。ただの後悔なら一生玻璃の側にいてやればいいわけだし、heroになりたいことへの妄執なのだとしたら、…それにとらわれて、結局新しい玻璃も置き去りにしたことになる。
いずれにしても愛する者を置き去りにして1人逝った清澄に、あまり私は共感できない。

他のレビューで「スマホが光った」のはどういう意味か、と書いているひとがいましたが、あれは玻璃の息子からだと思います。
この描写以前に彼から「台風中の天気レポーターとしてテレビに出る」と着電があったことから、再び無事を知らせる着電があったことを示唆しているものだと思う。

「真っ赤な嵐」という表現は産み落としたときの状態や、新しい生命の比喩だと思いました。
砕け散るところを~というタイトルは、もうそれこそ直接的に父親の頭蓋骨というか、UFOを打ち砕くことでしょうね。

評判の悪い帯の文言の意味は、ただ単に死んでもその細胞は息子に受け継がれているということなのでは。
駆け抜けるように読めるいいお話ですが、ちょっと比喩が陳腐なきもしますし、全体的に台詞が青臭くてラノベ感があります。
筆者はラノベ界で人気だった方のようですね。

そのため、帯が大言壮語だと思われます。ハードルは上げなくていいと思います。
私は清澄が、殺されかけた時に必死で指を上げる場面で、胸をキュッとつかまれました。


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ダン・ブラウン【インフェルノ】とダンテ【神曲】 [■BOOK・COMIC]

★満足度40点

最近、フィレンツェづいている。
常々ダンテを読もうと思っていたところ、タイムリーに【インフェルノ】が登場。
さらに追いかけるように、上野でウフィツィ美術館展も見てきた。 

神曲 煉獄篇 (角川ソフィア文庫)

神曲 煉獄篇 (角川ソフィア文庫)

  • 作者: ダンテ
  • 出版社/メーカー: 角川学芸出版
  • 発売日: 2013/11/22
  • メディア: 文庫

神曲 天国篇 (角川ソフィア文庫)

神曲 天国篇 (角川ソフィア文庫)

  • 作者: ダンテ
  • 出版社/メーカー: 角川学芸出版
  • 発売日: 2013/11/22
  • メディア: 文庫

ダンテの【神曲】。
この、西洋美術史や絵画に何にでも登場する神曲とやらに凄く興味は持っていて、満を持して読み始めたが…。
うーん、結局、私の心には何も届かなかった。
キリスト教徒ではないのだから、当たり前と言えば当たり前だけれど、もう少し起伏のある物語性があって、神学を説きつつ普遍的な感動をもたらしくれる物だと思っていたが、全くの見当違い。

煉獄では、ダンテがローマの哲学者ウェルギリウスに導かれ、歴史上の著名人たちに出会い懺悔や讒言を聞き、その罪に応じた責め苦に苦しむ亡者たちの7つの坂を登るのだが、ただ会話と事実の羅列のみで、仰々しい形容詞ばかりが並ぶ。 (ちなみに図書館で借りれず、地獄編だけ未読)

天国編でもハッと思わせる叙述はなく、ひたすらベアトリーチェを讃えるさまは、なにやら盲目的を超えて滑稽にも思えた。 神よりも常にベアトリーチェを讃えてるのだから。

だけどまあ、魂が原罪の罪に染まるタイミングという解釈は、西洋人の物の考え方を知る一助にはなった。
洗礼を受けていないまま死ぬと、原罪から解放されない。だから、生まれてすぐに洗礼を行うんですね。
しかしそれだと、キリスト教に帰依するという意識がないのに、勝手にキリスト教信者になっちゃうっていうね…。

文中、ダンテ自身が持っていたであろう疑問を、天国で偉人に見透かされるという形で叙述しています。
「おまえはこう考えた。『ある人がインダス河畔で生まれたとする。その地にはキリストについて語る人も、読んで教える人も、書いて記す人もいない。
その人の考えること、なすことはすべて人間理性のおよぶかぎりでは優れている。
その生涯を通じ、言説にも言動にも罪を犯したことがない。
その人が洗礼を受けず、信仰もなくて死んだとする。
そのかれを、地獄に堕とすような正義はどこにあるのだ?
かれに信仰がないとしても、どこにその罪があるのだ?』」

しかしこれに対する答えも作者がダンテである以上、結局明快な返答はありません。
「そういった所行はきちんと神が見ている云々、オマエが考えることではない」といったような返答でした。
キリスト教って、いっつもこれ・・・。

自分の無学故もあり、神学の研究者や、当時のキリスト教徒にとっては画期的な著書なのだろうが、この面白さをついぞ感じることはなかった。別の解説書でも読んで、新たな発見があればいいと思う。


★満足度65点

インフェルノ (上)  (海外文学)

インフェルノ (上) (海外文学)

  • 作者: ダン・ブラウン
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/11/28
  • メディア: ハードカバー

インフェルノ (下) (海外文学)

インフェルノ (下) (海外文学)

  • 作者: ダン・ブラウン
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/11/28
  • メディア: ハードカバー

さて、ダン・ブラウンの「インフェルノ」。
「ダ・ヴィンチ・コード」や「天使と悪魔」に見られるような芸術品に秘められた謎解きではなく、自分の計画を成就させたい科学者が単にダンテの詩を借りただけだった。
時間稼ぎともいえる暗号ゲームに付き合わせるための借り物といえようか。

人間の業を重ね合わせるのに、ダンテの地獄のイメージは使いやすかったとは思うが、あまりにこじつけといえばこじつけ。
少し芝居がかかった科学者の独白も鼻白む。
「ダ・ヴィンチ・コードがあんなに面白かったのは、やはり「最後の晩餐」そのものに謎かあり、歴史の深淵を覗きこむような一種の恐怖も感じたからだろうと思う。
ロスト・シンボル (上) (角川文庫)】あたりから、ロバート・ラングドンが振り回されるだけの展開が強くなってきた。

だが、今回の犯人がもたらした「テロ」の正体が、人間を病気にさせるような疫病ではなく、「人類の三分の一の確率で妊娠できない」ようDNAを書き換えるウイルスだった、というのには今までありそうで無かった大胆さ。

人口問題は私も心配。
このウイルス、特に大きな混乱ももたらさず、抜本的な解決になるかもしれない、などと妙に納得してしまった。
人間は目に見える危機がなければ、騒ぎはしないから。
インフェルノの後日談で、このウイルスが撒き散らされたと露見した展開になっても、一般人のなかには信じない人も多いと思う。
第三国ではそもそも状況を理解できる民度があるとは思えないし、もっと差し迫った問題が横たわっている。
先進国では「嘘でしょ?」「そうだとしても死なないんでしょ?」「誰が不妊になるかわからないし」なんて言葉か飛び交い、そのうち忘れらてしまいそうだ。対岸の火事のように。
この設定は次回作に引き継がれるのか否か。
きっとこの問題はこれで終わりなのだろうけど。

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バウドリーノ [■BOOK・COMIC]

★満足度70点

バウドリーノ(上)

バウドリーノ(上)

  • 作者: ウンベルト・エーコ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/11/11
  • メディア: ハードカバー

バウドリーノ(下)

バウドリーノ(下)

  • 作者: ウンベルト・エーコ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/11/11
  • メディア: ハードカバー

読破したときは、「評価に困る作品だなぁ…
どうとらえていいものやら」…と、戸惑いました。

西洋社会にはびこった伝説は、概ね人為的なものであると皮肉った作品と受け取れたけど…もしくは純粋にピカレスクロマンとして、楽しんで執筆しただけかも。

前半はバウドリーノがフリードリヒに拾われ、その才覚で信頼を得て、フリードリヒや自分の師匠のためにの司祭ヨハネの王国を探しにいくこと誓うまでを描くが、それが長い長い。

フリードリヒの正妻に叶わぬ恋をし、パリに留学し五人の仲間と出逢い、司祭ヨハネからの手紙を政治利用するために捏造するまで終わってしまう(笑)
こちらはいつになったら旅立つのかと始終やきもき。

しかし仲間とのかけあいや、司祭ヨハネの伝説を肉付けしていくうちに話が大きくなっていき、ついには自分たちで造り出す物語と情景にうっとりする様は滑稽でもあり、読んでいるこちらも楽しくもある。
そうこうしているうちにヨハネの贋作は盗まれ、フリードリヒも謎の死を遂げてしまう。

下巻ではやっとこさ旅立つが、私は伝説に含まれている描写があまりに荒唐無稽なので、バウドリーノの虚言落ちかとヒヤヒヤしたよ!なんたってロード・オブ・ザ・リング並みの化物がわんさか登場するんだから。

しかし司祭ヨハネの直前まで迫っておきながら、結局果たせず、家族も持てなかったバウドリーノに愛着を感じることは確かで、最後見果てぬ夢のために旅立つところでは、なんとも言えない切なさが込み上げてきた。
結局、バウドリーノと五人の仲間の人生ってなんだったんだろう…、って。

バウドリーノとヒュパテイアの子供は生きているのか、バウドリーノは会えるのか…

しかしこの作品の趣旨は感傷的にさせることではなくって、なお現在伝わる聖遺物、特に聖杯などが善意の嘘によって現実化していく過程を楽しむものなんだろう。

また、実在の人物で謎の死を遂げたフリードリヒを密室殺人に仕立てあげ、最後の最後に真実が露見するくだり、フリードリヒが攻めて命名した町が生まれる過程もフィクションを織り混ぜて面白い。

聖杯を宝石がゴテゴテに飾り付けた金の杯ではなく、バウドリーノの父親が長年使っていた、ワインの染みたただの木の器にしたほうが「説得力があるではないか」にはニヤリとさせられました。

人間の創造力と想像力をシニカルな視点で描きつつ、果たしてそれを書いている自分も後世の大捏造者とするのも、やるよねぇ!
世界は同心円状に広がるメタフィクションかなのかも!?


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私を離さないで [■BOOK・COMIC]

★満足度90点

わたしを離さないで

わたしを離さないで

  • 作者: カズオ イシグロ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/04/22
  • メディア: 単行本

「提供者」は、逃げ出せないのではない。
どこにも行くところがないのだ。

彼らを取り巻く社会自体が、彼らの存在を緩やかに肯定しているからだ。
肯定しているからこそ、彼らに与する者もいない。彼らは自由に移動はできるが、安住の地はない。

人々は、あまりに日常と化した「提供者」の存在に、疑問を抱く事すらないし、彼ら「提供者」は社会問題の火種ですらない。

これは相当気持ち悪い社会だ。

現在、私達が耳にし目にする「遺伝子組み換え大豆」などのように、私達が直面するのは「選ぶか選ばないか」だけで、その存在その物を排除しようというのは一部の運動家だけである。
しまいには新しい技術への気持ち悪さも、いずれ鈍化して麻痺し、当たり前になってしまう。
この話の世界も同じように、人は物を買う感覚で「提供されるかされないか」だけを考えればいい。

だから、彼らがなぜ逃げ出そうとはしないのか、という愚問を呈するのは根本的な間違いだ。
彼らは戸籍もなく、姓もなく、家族もいないだろう。身分を詐称することすら思い付かないのかもしれない。
よしんば誤魔化せたとして、社会に出て仕事をするスキルもないだろう。

それでも、トミーのように怒りの片鱗すら見せないキャシーらの、達観した様子に、違和感を感じることもあった。
生殖機能が元からないことに由来するのだろうか。生きる渇望…といのが枯渇してしまったような…。
それともなまじ、寄宿舎での安穏とした平和な生活と適度な教育が、不満を産み出さなかっただけなのだろうか。

マダムがクローンたちに触れることを自然と禁忌とするのがわかるような気がする。
だって彼女はそういった存在そのものを許す社会を変えようとしたのだから。その人間のエゴを凝縮した存在であるクローンを見る目は、とても奇妙だったろう。

ヘーデルシャムののんびりと美しい情景がまぶたの裏に浮かんでくる。
大人になっても、マダムの展示館を信じていたトミーたちの純粋さが、悲しい。才能を伸ばせば3年の自由がもらえると、希望を抱いていたトミーたちの姿が。
永遠に美しいヘーデルシャムの思い出の中で、青春時代しか知らない無垢な魂たちは、最期にあの船を思い出すのだろうか。

「死ぬことがわかっている人間は覚悟があり、覚悟がある人間は幸福なのだ」という、あるジョジョに出てくるプッチ神父の言葉を思い出した。ひどいエゴだと、思う。
人は選択する自由があってこそ、幸せなんだ。三年間すら自由にできない彼らに、何が言えよう。
魂の存在さえ否定されてしまう彼らに。


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彼女がその名を知らない鳥たち+九月が永遠に続けば [■BOOK・COMIC]

★満足度80点

彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)

彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)

  • 作者: 沼田 まほかる
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2009/10
  • メディア: 文庫

★満足度60点

九月が永遠に続けば (新潮文庫)

九月が永遠に続けば (新潮文庫)

  • 作者: 沼田 まほかる
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/01/29
  • メディア: 文庫


■不愉快だけど泣ける傑作

知人に借りてこの二作品を連続で読みました。
【彼女が~】の方を先に読み、【九月が~】を後に読んで、ほんっとに良かったと思う。
なぜなら、落ちまくったから。
 
彼女~は、酷く不愉快になるけど傑作だと思う。
読んでいて辛く、胸糞悪くなることもしばしばだったのに、読了した後は後から後から涙がこみ上げてきて、一生忘れられないんじゃないかと思うような、得体の知れない悲しみが胸に巣くった。
 
ごつごつした石をいくつも飲み込んだように胃の腑がずしーと重くなり、何をするにしても陣治と十和子のことが頭に浮かんだ。
はっきりいって、あの状態は鬱と言ってもいいのではないか。何をしてもさめざめと泣きそうになって、何もする気にならず、心から笑えず、かといって絶望してはいない。そういった状態がしばらく続いた。
 
登場人物のトワコとジンジははっきりいって、すぐには寄り添えない。
執拗に描写されるジンジの生理的醜悪さは、読んでいるこちらだって受け入れがたいし、かといってジンジに養ってもらいつつ生産的な事は何一つやらず、捨てられた男への慕情を延々と断ち切れないトワコにも辟易する。
あまつさえトワコは水島という男に捨てられた男の姿を重ね、平然と不倫を重ねる。
 
でも、わかっちゃうんだな。
ジンジの気持ちも、トワコの気持ちにわかってしまう。どこかで寄り添う自分がいる。
人間は持っている性質は出会い方や環境で、コントロールの仕方が変わる。
トワコがもし幸せな恋愛をしていたら、あの依存症の傾向は薄れたかもしれないし、ジンジも自分を愛してくれる女性に出会えたらコンプレックスを軽減できたかもしれない。
でもジンジはあのトワコだからこそ、父性とも男性ともつかない、執着をも飛びこえた不思議な感情でトワコを見つめ続けたわけだし、永遠の恋人になれたわけだ。

ラストは、賛否というより、納得できるかできないかで大分分かれるだろう。
自分の気持ちの落としどころを潰された気がして、消化できない思いをしばらく抱える人もいるだろう。

私は、納得…というか、ジンジは死ぬしかないだろうと話の流れでうすうす感じていたので、受け入れる事ができたけど、それでもジンジ亡き後トワコはどうやって生きていくのだろうかと、悶々としてしまった。

トワコのその罪はジンジが背負っていったけど、彼女が依存症を克服できるとは思えない。
一生誰とも対等に恋愛できるとも思えない。彼女はジンジとの生活を懐かしいとか愛おしいと思えないのに、ずっと喪失感を抱えたまま生きていくのではないか。
彼を思い出すたびに奈落に落ちていくのではないか。
これは真っ白な純愛ではなく救済でもなく、ジンジが自分のために果たした最後の我侭なのではないか。
トワコの中で自分の存在を永遠にするために。
でもトワコはジンジが生きている限り、彼と前向きに寄り添うことはない。
やはりジンジは死ぬしかなかったのだ。

なんだろう、陣二の、トワコのために料理していた背中を想像すると、泣けて泣けてしょうがない。
あまりにも大変な事件を「いろいろあったけど幸せだったなあ」とさらっというジンジが、悲しい。


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ミレニアム [■BOOK・COMIC]

★満足度100点

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: スティーグ・ラーソン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/09/08
  • メディア: 文庫
ミレニアム2 火と戯れる女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム2 火と戯れる女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: スティーグ・ラーソン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/11/10
  • メディア: 文庫
ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: スティーグ・ラーソン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/12/05
  • メディア: 文庫


読んだのは結構前だが、ミレニアムの面白さは文章にし難く、なかなか書かなかった。
久々に痛快かつ興味深い小説。

ジャーナリズムの倫理的問題、女性に対する暴力、社会的弱者への偏見に対する問題提起もはらみつつ、完全なエンターテイメントに仕上がってる。
数々の虐待に耐えつつも、ハッキング能力で報復するという、新しいヒロイン像にも舌を巻く。

そんなリスベットにもう~メロメロ。
彼女の「正義」はわかりにくいが、筋が通ってる。理由をいちいち他人に説明しないのも、それが彼女の生い立ちからくる防衛の一環なのだが、なんだかかっこよく映る。
普通の人は他人に「勘違いされたくない」「嫌われたくない」為、自分の行為を正当化したり言い訳したり色々忙しい。しかし彼女はバッサリ「何もしない」のだ。

極度に人間不信だが、やはり人間、完全に孤独は耐えられない。
ミカエルに恋しちゃった時の頑なな態度が可愛くてたまらない。

そして好きだからこそ自信がなく、突っぱねるしか対処できない事も。
社会性があって人生の王道を歩んでいる女性にコンプレックスを抱き、ガランとした部屋に一人ぽつねんと暮らしている(第二部の)リスベットを思うと、ミカエルでなくても後ろから抱き締めたくなる。


第二部は知られざる父親との確執、父親が実は、・・・っていうのも、吃驚仰天の展開。
リスベットが話の中心なのに、なかなかリスベットが出てこない。

推測で事件に当たる警察やら検事やらの軽挙妄動に「フフン」とせせら笑いながら、リスベットを知ったら凄いわよ、と、読者はリスベットの正体が広く認知される事を望んでしまうのだ。
ミカエルとリスベットが一度も顔を合わせないのに、二人が互いの行動を読み合っているのもスリリング。リスベットが彼のPCをハッキングし上手く誘導し、彼は実地調査するという、1部のスタイルを踏襲している。

第三部ではリスベットを散々苦しめてきた諸悪の根源に法廷で立ち向かうという法廷ドラマの趣向もはらみつつ、やはり獄中のリスベットを陰ながら支えるミカエルとのやりとりが面白い。

しかしスゥエーデンってこんなに性に奔放ど積極的な国民性なのか?20代だろうと50代だろうと女性なら誘われれば手を出す(出せる)ミカエルを描きつつも、ちゃんとリスベットの恋する女心を描写できるラーソンは凄い。

そして三部作通して、これだけ趣向の違う展開になりつつも、全体の雰囲気は通していることに驚く。
あまりスゥエーデンの社会的問題などには疎かったが、北欧にもナチズムに傾倒する時代があったり、男性によるあからさまな女性蔑視、暴力被害が思いのほか多いことに驚いた。実際のデータや事件が注釈に引用されているので、そちらも興味深い。
スゥエーデンの公安の歴史なども織り込みつつ、国家権力とメディアのあり方やミカエルを通してメディアが「信念」を持つことの重要さも訴えてくる。

まだまだ出番があるのか?と思わせる登場人物があっさり退場したり、あまり本筋に関係の無い複線が描かれるが、まったく気が削がれない。
多分「えっ!?もう出番なし?」と思わせる位が、次の展開に期待させるのかも。
そしてその通りに次から次へと新しい難題が立ち上ってくるし、複線はむしろ、登場人物たちの生活や性格を現すのに濃厚な肉付けになっている。

ミカエルとモニカ・フィグエローラとリスベットの行く末も気になるが、もっと気になるのは全く出てこなかったリスベットの双子の妹!
本当に本当に、ラーソンの急逝が惜しまれる。


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毒婦 [■BOOK・COMIC]

★満足度80点

毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記

毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記

  • 作者: 北原 みのり
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/04/27
  • メディア: 単行本

■面白いが、腹立たしくもある

<<本書で初めて知ったこと>>

・父親は行政書士、インテリで上品で洒脱。母親は社交的で町内会系に頻繁に顔を出すタイプ。
・佳苗は未成年時、知り合いの通帳と印鑑を盗んで何百万もおろすが、示談に。父が完済する。
・母親と折り合いが悪く、高校生の時祖母の家へ家出。以来、ほぼ祖母宅に。
・家族を知るものは「上品な部分は父親似、周囲とずれているのは母親似」と評する。
・父親は木嶋佳苗の上京後離婚し、3人の子供を成人後送り出した後、自殺。
・4人殺害疑惑の他に、一度も会わずに金を振り込ませる事に成功した男性も複数。
・一部はホテルで性行為前に睡眠薬を飲ませ、翌日ドロンするという荒業を行使。
・本命の男性Sがいて、その人には何年間も偽名を使用。プロポーズされても断っていた。ちなみにS氏は木嶋逮捕後、実名を初めて知る。


久々に一気読みした。上記抜粋以外にも驚くことばかり。
読みごたえもあり、読みやすくもあったし、物足りなさもあれば、もうこんな女の人生を追うために分の時間を使いたくもない、とも思う。

最初は、こんな女に騙された被害男性はどんな人なんだ?という不謹慎な気持ちもあったが、読みすすめるにつれ、初心に帰った。

「騙された人は悪くない、騙すやつが悪い」という倫理に。
騙された人はバカかもしれないが、「悪く」はない。
周りには「木嶋はもてない男性に夢を見させたんだよ」、なんて呆れたコメントをする人もいるが、そんな話があるか!たかだか数回のsexで死んでもいいはずかない。
例え彼らが童貞だったとしてもだ。
木嶋とHしなかったら、一生童貞だったとしてもだ。
他の女性と幸せになった可能性もあるし、そもそも女性以外で得られる幸せを得たかもしれないし。
死ぬというのは、あらゆる可能性かなくなることなのだから。

ということで、木嶋が殺人を犯したか、していないかはおいといて、騙すという観点から言えば、騙された方は悪くない。だって、騙そうとする人に出会わない人が、ラッキーなだけだもの。

しかし何故これだけ、男たちから金を毟りとれたのか。
それは、彼女が全く悪びれていなかった事も原因だろうなぁ、と思う。
逆に、彼女が言い繕ったり、言い訳したら、相手に不審がられただろう。
言い訳は、「相手に嫌われたらどうしよう」という良心が働く。嘘をつく側に罪悪感がある場合は、まだ善意の欠片が残っている。だが、木嶋は違う。

三十路の癖に、「学生だから最初から学費を支援してくれる人」とシャアシャアとのたまい、支援してくれないと契約違反かのように責める。
そこには会社に対する責務のようなものも漂い、男たちに「確かに最初に約束したから…」などと、何故か社会違反しているような気にさせたのだろう。
恋愛は契約じゃなく、信頼で成り立つのに。

多少、北原さんは木嶋を美化している気もする。「思ったより上品で色っぽい」「抜けるような色白で清潔感がある」。少しドラマチックに肉付けしてあげないと、内容も乏しくなるし、読者が木嶋への嫌悪感で読了しないかもしれない。それとも本心だろうか。

婚活サイトに臨む際の、男性側の女性への要望をやんわり批判するくだりも、客観的ではない気がした。
そういう場でどうしたって高望みになってしまうのは、男女とも同じなのでは。自分たちが、自力では相手を見つけられなかったことはわかっていて、だからこそサイトに集まるのは同類項なのだと思うと、その中で「玉(ぎょく)」を見つけたいと思うのは男女とも当然じゃないのか。
しかしまあ、初めてホテルに行った相手と、Hする前に唐突に記憶を失ったにも関わらず、「Hしましたよ~」と言われ、いぶかしみつつも「覚えてないので次もまた会って見ませんか?」と言える男性に対して、「男は女性より随分安全な場所にいるのだな」という見解は100%同意。
それに対して「次は何が起こるか楽しみですね」とのたまう木嶋にもぞっとするけど。

話はそれたが、木嶋は99.9%ブラックだ。
しかし状況証拠しかないのも事実だから、本当の本当に男性達が自殺した可能性は拭えない。
練炭を購入したのは木嶋だと判明しているケースもあるが、大出さん宅で使用した物と一致しているのかはわからない。
そして「ふったら凹んでたので、自殺したんだと思います。練炭は料理に使いました」などと言われたら、それ以上どうしようもない。睡眠薬+自殺というのは本当に大胆で巧妙で、腹立たしい。

でも死刑になった。みなが木嶋を死刑にしたい、という意思も少なからず感じられる。
被害者宅で、途中まで使用された練炭がバルコニーに捨てられていて、自殺者が途中で捨てる事は在り得ないという事も、判定に影響しているようだし、供述の矛盾もあるが、死刑たる根拠に弱い。
今後の控訴審の行方がどうなるか心配だ。


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エリザベート [■BOOK・COMIC]

★満足度80点

エリザベート (上) 美しき皇妃の伝説 (朝日文庫)

エリザベート (上) 美しき皇妃の伝説 (朝日文庫)

  • 作者: ブリギッテ・ハーマン
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2005/09/15
  • メディア: 文庫
 
エリザベート (下) 美しき皇妃の伝説 (朝日文庫)

エリザベート (下) 美しき皇妃の伝説 (朝日文庫)

  • 作者: ブリギッテ・ハーマン
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2005/09/15
  • メディア: 文庫
■「エリザベート」の源になった決定版

何ともいえない、虚しさ。
ただただ率直な感想を述べれば、「勿体無い人だ」という言葉しか出てこない。
絶世の美女と呼ばれ、皇帝からも深く愛され、その気になればフランツ・ヨーゼフともども、為政者として様々な政治的問題を、解決に導くことができたかもしれないのに(あくまでも「導く」だが)。
誉れ高い大皇妃ゾフィーに頭が上がらず、宮廷儀式などのプレッシャーはあったと思うが、全てを姑のせいにして一生涯自分の殻に閉じこもり続けたというのは、子供としかいいようがない。
16歳にして嫁いだのは可哀想だとは思うけど、毎日泣いていたというのもなんだか情けない。
人の苦労は立場違えば千差万別、と思うけどそれにしたってあんまりに無責任じゃないか?
いくら宮廷生活に息詰まるとはいえ、養育権を姑にとられたとはいえ(しかも皇太子ルードルフや長女ギーゼラのせいではないのに、ゾフィーが死んだ後もあてつけのように二人に冷たくし続けたというのも酷い話だ)、それを死ぬまで言い訳にするとは酷い有様。
死ぬまで成長できなかった、いや、成長するのを拒み続けた可哀想で、残酷な人。
きっと心から満足したり、達成感に満ち足りた気持ちを味わったことが少ないだろう。
例外として、ハンガリーの貴族政治化アンドラーシと出会ってハンガリーに尽力したことが、彼女の輝ける幸福の時代だったのだろう。それも夫の意見を蔑ろにしてアンドラーシに唆された感があるから厄介だ。
肉体関係より、精神的結びつきな浮気の方が堪(こた)える。
フランツの心中、察するにあまりある。
なぜここまで酷評するかというと、彼女はただのアーパーなお馬鹿さんではなく、寧ろ賢く既成概念に捕らわれない柔軟な思考力を持っている人だったからこそ。
人を惹きつける才能を持っていて、人を幸せに導くことが出来たのに。
市井の人々の貧しい暮らしぶりもよくわかっていて、貴族社会は害にしかならず共和制への理想を訥々と周囲にもらしていた割には、別荘に崇拝する詩人ハイネの像を置き多額の調度品を拵え、豪奢の極みを尽くしたものの、殆ど海外旅行にうつつを抜かしていたという矛盾が、理解に苦しむ。
きっと、その矛盾した心を埋めるための努力すら、放棄したのでしょうね。
自分の立場を忘れたら、他の人々も宮廷も自分のことを忘れてくれるとばかりに。
そんな事はないのに。
そういえばノイシュバンシュタイン城の狂王・ルートヴィヒ二世」(エリザベートの従兄)も、ワーグナーの戯曲に準(なぞら)えた部屋を拵えたりして、存分に自分の世界へ埋没していった。ゲイとしても有名な彼が唯一心を開いた女性がエリザベートだったというから、この二人、従兄弟とはいえ血は争えないという感じ。
この本で語られていない埋没した史実に、どれだけの事実が含まれているかわからないが、エリザベートからもしくは女官などのやりとりといった豊富で厖大な手紙の引用、自分の意見を極力廃した文体、資料から得られた情報での政情分析などなどからすると、かなり本人の姿に近いのでは、と思う。
もちろん本にするにあたって取捨選択をしただろうし、そこには別の彼女の側面が隠れているかもしれないけど。
まあ、戯曲などではカッコウのスキャンダルの対象ですね。本当に勿体無い。

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